番外編. Walther P38
P38左側面(弾をロードしてコッキングした状態。 この状態の再現の為にはダミーの9mm弾を使ったので危険はない

この銃のスライドの左側を見ると 1062d ac 45と読めるが これはCarl Walther社製で1945年製造を意味する。
1945年はドイツが無条件降伏した年だが生産期間は4ヶ月ほどしかなかった。
Walther P-38の研究本として有名なGene Gangarosa Jr.著の「P-38 Automatic Pistol The First 50 Years」によると1945年には約40,000丁のP38がCarl Walther社で生産されて、シリアルナンバーはdシリーズまで行っていた事が確認されている。
(Carl Walther社では1万丁ごとアルファベットの文字を付けていて、これは毎年リセットしていた。 年の初めに1〜9999まで番号のみ、次に1a〜9999a、順次b、c、dと進んだ。)
これからすると1945年の1062dというのは本当に敗戦直前、最後の最後に作られた銃だと言う事が分かる。
1062dと言うと1945年の41,062丁目の銃ということになるが1シリーズ1〜9999まで9999丁だとすると正確には41,058丁目ということか。
この銃、各所に刻印されている工場コード、WaAマークを見るといろいろ不思議な点がある。
工場コード、WaAマークが色々と混ざっている事だ。
ドイツでは武器の製造工場を場所を特定できない様にアルファベットを組み合わせたコードで表していた。 P-38は主に3つの工場で生産されていたがそれぞれ割り当てのコードがCarl Walther社はac、Mauser社はbyf、Spreewerke社はcyqと言った具合。 また時期によってコードが違う事があった。 その他の特徴としては軍から認定を受けた検定官が各工場にいてさまざまな部品を検査して合格したものに検定印を刻印していた。 (WaAマーク) これも工場ごとにコード化されていた(2〜3桁の数字)。
このWaAマークは簡略化された鷲のマークの下に数字(あるいはWaAと数字)が刻印されていた。
従って通常は1つの工場で部品製造、アッセンブルされた場合は当然工場コード、WaAマークが一致する。 しかし完成品を作っていた3工場の他に部品だけ作って3工場に供給していた会社も幾つか存在する。 また3工場の間でも部品のやり取りがあったようだ。 従って何種類かのWaAマークが混在する事自体は珍しい事ではない。
まずは、このP-38の刻印をまとめてみた。 それぞれの刻印は下に写真があるので確認できる。
スライド(左側面): ac 45 (Carl Walther社 1945年製造)、他に左側面にはP.38の刻印、シリアルナンバーの刻印がある。
スライド(右側面): WaA 359 (Carl Walther社) 正式にはこのWaAマークは2つないといけないが1つしかない。 またナチスのマークである「かぎ十字の上に鷲」の刻印もない。
バレル(Barrel): cyq WaA 88 (工場コード、WaAマーク共にSpreewerke社の物)、他にバレルの別の場所にも鷲の刻印を見て取れるがその下の部分がどうなっているのか分からない。 WaAマークなら数字、ナチスの刻印ならかぎ十字がある。
ロッキングブロック(Locking Block): WaA 359 (Carl Walther社のコード)
フレーム(レシーバー): WaA 140 (ベルギー FN社(Fabrique Nationale)のコード) FN社は部品を作っていた。 他に、本来あるべきシリアルナンバーの刻印がない。
スライドロック(Slide Lock): WaA 135 (Mauser社のコード)
シア(Sear): WaA 135 (Mauser社のコード)
ハンマーストラット(Hammer Strut): WaA 359 (Carl Walther社のコード)
マガジン(弾装)は2つある。
1(P.38の刻印): jvd WaA706 (チェコスロバキア Erste Nordbonhmishe社)
2(P.38vの刻印): WaA 135 (Mauser社)
ホルスターにはcxb 42及びWaA 727の刻印。 これは1942年製、初期型の物だろう。
スライド、バレルはCarl Walther社とSpreewerke社、フレーム関連はCarl Walther社、Mauser社、FN社の部品なので一体本当はどこでアッセンブルされたのか特定できない。
スライドがacだからCarl Walther社かとも思われるがそうとは言いきれない。
「P-38 Automatic Pistol The First 50 Years」の85ページにスライドにac44の刻印がある銃がFN社のスライド、Mauser社のフレームでMauser社にてアッセンブルされたとして紹介されている例もある。 ただしなぜそのFN社で作られたスライドがCarl Walther社のコードacを付けてMauser社でアッセンブルされたのか、なぜそうだと分かるのかに関しての記述が一切載っていないので謎は深まるばかりだ。
部品工場から受け取るばかりではなく3工場間でも部品のやり取りがあったようだがこうきっぱりと3工場の部品に分かれていると一体どこでアッセンブルされたのか追いかけようがない。
他に謎な点はフレームにシリアルナンバーの刻印がないこと。 本来はスライドとフレームにシリアルナンバーが打たれている。 これは1945年の4月(あるいはそれに近い時期)という敗戦間近で生産プロセスが混乱していたためとも考えられる(スライドの右側にWaAマークが1つしかない理由もこれかもしれない)し、単にアッセンブル前の部品だったと言う可能性もある(この場合は戦後誰かが部品を調達して組みたてたということになるか)。
戦後、フランスが残された部品を使って、また工場の施設をそのまま利用してP38を作ったことは知られているがそれらの銃にはスライド、フレームともにしっかりシリアルナンバーが刻印してあるのでこの筋のものではないのだろう。 しかし何事にも例外はあるからやはり断定は出来ない。
いずれにしても各部品は間違いなく当時の物(戦時中に作られたもの)だろう。 しかし生産工場がはっきりしないのでコレクターアイテムとしての価値はあまりないと思う。 あるいは逆に欲しがる人がいるかもしれないが。 とにかくこのP38はWaA、工場コードの展覧会みたいな銃だ。
以下、各部写真とその説明を紹介する。
左側面にP.38 シリアルナンバー ac 45 の刻印
スライドの右側(下の写真)を見ると本来2つ付いていなければ行けない検査印(WaAマーク)が1つしかない。
鷲に359の刻印だが359はCarl Walther社に割り当てられた番号だ。
これが1つしかないと言う事は検査途中の部品だったか、戦争末期、しかも敗戦間近のために検査を簡略化したかどちらかではないかと思う。
シリアルナンバーが入っているところからするとアッセンブル後、銃として完成していたものである可能性が高いが、そもそもどの段階でシリアルナンバーが刻印されたのか分からないから本当のところはわからない。
右側面(スライドにWaA 359の刻印)

左側面スライドロックした状態
他にパーツには何種類かのWaAマークが見て取れる。
他工場の部品を受け取ってアッセンブルされる事もあったと言う事なのでWaAマークが違う事自体は別に珍しい事ではないが…。
まずバレル(銃身)に刻印されている工場コードがcyqであること。 これはこのバレルがSpreewerke社で作られた事を示す。 となりにWaA 88の刻印も入っているが88はSpreewerkeの番号だから正しい。
フレーム(レシーバー)にはWaA140の刻印。 この番号はベルギーのFN社(Fabrique Nationale)に割り当てられていた。 つまりフレームはFN社で作られたもの。 この会社は部品だけを作ってCarl Walther、Spreewerke、Mauserの3社に供給していた。
フレームには通常入っているシリアルナンバーの刻印が無い。 アッセンブル前の部品だったのかもしれないし他の理由があるかもしれない。
そしてスライドロックにはWaA 135、これはMauser社のコード。
バレルの刻印WaA 88 cyq (Spreewerke社)、フレームにはWaA 140(FN社)、スライドロックにはWaA 135(Mauser社)

バレルをさらに細かく見てみるとロッキングブロックにWaA 359(Carl Walther社)の刻印もある。 バレルそのものはSpreewerke社製で部品がCarl Walther社製と言う事になる。 またバレルのほかの場所には鷲の刻印が見て取れる。
左の写真:ロッキングブロック(WaA 359)、右の写真はバレルの一部、ワシの刻印WaAマークの一部かナチスのマークか

フレームのほかの部品、これらはベークライト製グリップカバーをはずさないと見えないがシアにはWaA 135の刻印がある。 Mauser社の番号だ。 さらにハンマーストラットにはWaA 359 Carl Walther社のコード。
これだけ入り乱れていると一体どこの工場で最終アッセンブルされたのか全く分からない。
左端はフレームの全体写真、中央はハンマーストラット(WaA 359)、右側の写真はシア(WaA 135)
マガジン(弾装)は2つあるが、1つはWaA135、Mauser社の物、もう一つはjvdにWaA706の刻印なのでチェコスロバキアのErste Nordbohmishe Waffenfabrikで作られたもの(この工場ではマガジンを作っていた)だと分かる。

ホルスターは1942年製、初期型のようだ。 牛革のしっかりした作りで裏側に大きくP38の刻印。 さらにcxb 42の刻印、その右隣りには薄くて分かりにくいがWaA 727が入っている。 これらのコードがどこの工場のものかは分からない。

P38の特徴、チェンバー(薬室)に弾が入っていることを知らせるインディケーターが付いている。 (9mmダミー弾を使用。)

左の写真はバレル内のライフリングの様子、中央と右の写真はチェンバー部分、マガジンに装填された弾(ダミー)が見える。 スライドを戻すと弾はチェンバーにロードされる。(中央の写真は銃が銀色に見えるが本当はブルー仕上げ。 反射と写真そのものの明度設定でこう見える)

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作成 04/24/02
最終更新日:07/04/04